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歴史に埋もれた文章達




2005/1/15  : 「トライアングル」

私が自分で離したその手を
私自身が一番後悔してるのかもね
そんな情けない自分でも
この思いだけは知ってほしい
ただ心の中で思っているだけでは
貴方に知ってもらえないから

貴方が大事
仕事が大事
友達が大事
どれが一番かなんて
選べるわけがないじゃない

それでも貴方は
貴方だけを選ばせようとしたから
だから私は…

― 強すぎる思いは相手を束縛する
― 強すぎる束縛は
― 他の全てを排除する

どうしてこうなっちゃったのかな?
どうしてあの時貴方は全てを包み込んでくれなかったの?
どうして私は


― 独りにならなくちゃいけなかったのかな?


三点とは非常に危ういバランスなんだね
どれか一点が欠けてもその形を保てないから
それでも頂点だけが欠けたら
二点がしっかりと支えてくれるようになったよ
貴方が欠けただけで
仕事と友達が支えてくれるようになったよ
本当に安心出来るくらいにしっかりと
なのにどうして
私は泣いているのかな?
どうして私は
支えられなくちゃならなくなったのかな?


― 私はただ普通の三角を描きたかっただけなのに… ―



2005/3/19  : 「森は生きている」

カラスのように漆黒のドレスをその身に纏い
のんびりと 灯りもついていない部屋の窓を開け
じっくりと彼女はテラスから下を眺める
よく整った顔を 月明かりに照らされながら
ハーブティーを口にして 今夜はどんな人があの森に行くのかしら?と考える

      彼女の大好きな 黒くて紅い森


あれは三日月の夜でした
ノクターンを聴きながら 下を眺めると
森の前で言い争いをしている若い男女
にやつく私に気付くはずもなく 二人消える黒の森
選ばれたのは 男性だけ
バクバクと口を開けて 青ざめた顔をして
レースに出た人のように 戻ってきたのは女性だけ

      彼女も大好きな 黒くて紅い森


たくさんの光が満ちる満月の夜
さわぎながら歩いている4人の若い男の子たち
いやがる1人を無理矢理連れて 四人消える黒の森
ゴメンねと泣き叫び 戻ってきたのは嫌がっていた1人だけ
ノミのように飛んで走って逃げた

      少年は怖がる 黒くて紅い森


いつかの半月の夜でした

ケーキを詰めた ランチボックスを持って

にっこりと微笑む彼女は 漆黒のドレスをひるがえし 森の奥へ進む

えさを待つ 彼女の大好きな何かに会いに

      彼女を大好きな 黒くて紅い森に



2005/5/29  : 「それは羽衣のように」

もうそろそろ三週目になるでしょうか
月明かりが眩しく 風の強い夜になると
アパートの3階に一人暮らししている私の部屋から見えるすぐ目の前の公園に 彼が現れてから
彼は公園のベンチに座って 右腕を高く天に伸ばし
握り締めた何かを 風になびかせるのです

彼が初めて現れたのは 4月くらいだったかな
私は正直 彼はちょっとアレな人だと思って
関わりたくないので 気味悪がってすぐに窓を閉めていました

二週間ぐらいが経ち 好奇心と怖いもの見たさで
ある日の 月明かりが眩しく 風の強い夜に彼の観察をしてみることにしました
彼はその日も天に向かって伸ばした右腕に握った
長い何かを風になびかせていた
彼の向いている方向が私の家で無いのを確認し
ドキドキしながら彼の持っているものを よく眺めてみました
はっきりとはわからないが 何かの毛糸のような素材で出来たものでした

三週間目は満月の夜でした
いつもより更に月の明かりが強く 今度ははっきりと見えそうです
心臓の鼓動が好奇心に高鳴り 窓から彼のことをよく見てみました
満月の光は 予想を大きく上回っていたようで 一度に沢山の真実を照らし出しました
彼が風になびかせていたのは マフラーで
そのマフラーは 私が2月にやめたバイト先で無くしたもので
そのマフラーを風になびかせていた彼は
私の片思いの バイト先の先輩でした
頭の中がぐるぐるして ドキドキして 何が何だかわからなくなってました

四週目に私は決意しました ちょっと怖いけれど 本当のことを確かめたいから
彼がベンチに座っているのを確認して 私は家を出て公園に向かいました
風にマフラーをなびかせている先輩に 私は声をかけました

「…先輩、ですよね」
「…ああ、やっと判ってくれたんだね」

安堵したように微笑む先輩は あの日のままで 安心したら今度は怖さとは違う緊張が出てきました

「それ…私のマフラーですよね?どうしてそんなことをしてるんです?」
「うーん。どこから話そうかな…。まず、僕が先月このマフラーを見つけたんだ。それで仲間に聞いたら君の物だっていうから、届けようとしたんだ」

困ったように話す先輩に

「えっと…それだったらこんな事しなくても私の家に届けてくれれば良かったのに…」

と言うと

「いや、従業員名簿で住所は判ったから目の前に来てみたのはいいのだけれど、やっぱこういうのってマズイかなって思って…ほら、女の子の一人暮らしだし、いくら元バイト仲間だとは言っても住所を調べられたら嫌だろうし…ポストに入れておこうにも、どれが君の家のポストか判らないし、変質者と思われても困るし…だからこうやって気づいてもらえるのを待ってて…極力、君の家のほうを向かないようにしながら…」

本当に困りながら話す先輩に 私は笑ってしまった
先輩は優しすぎるから 気をつかいすぎて時々こういった空回りをしてしまうんだった

「ふふ…でも、今やってることのほうが変質者っぽいですよ?」
「あ、やっぱり…。…返す言葉が無いね」
「ふふ…」
「ははは…」

二人でしばらく笑って ベンチに座りながらたくさんの話をしました
私はその流れで 今までしまっていた想いを伝えました
しばらく呆然としていた先輩は マフラーと一緒に返事をくれました
その答えは…




あれから一週間が経ちました
今までのように アパートの3階の私の部屋から見える目の前の公園に 彼が現れます
でも 月明かりも 強い風も無い 日の明るい休日の午前に
そして右腕を高く天に伸ばします
でも今度は何も握ってはいません
開いた手のひらを 窓から覗いた私に振ってくれていますから



2005/7/7  : 「the seventh night of July … the Star Festival」

星が見えた
月が眩しい

七月七日の今日
遠く離れたあの場所から
大好きな人がやってくる

一年に一度しか会えないけど
一年に一度しか会えないから
一秒たりとも無駄にしたくない
早く逢いに来てください
天の川を越えて
私の大好きな人
私の彦星



「先生…いつもの質問ですが、本当にその抗体を作るのに一年間もかかるのですか…?」

「嘘は言いません。貴方の莫大な資金提供により、誕生することの出来た貴方の理想の状態となっている彼女は、あのように素晴らしい結果となって存在しております。ですが、あのように無から有を作り出すということには大きなリスクがあった。彼女の生み出す細菌は生物にのみ反応し伝染する。生物の反応を察知すると、素粒子と化し接触する。その為にいかなる防護服も意味を成さない。そして彼女の細菌に感染した人間は数分で、死ぬ」

「…本当なのですか…」

「何度も言います。嘘は言いません。それに、私のスタッフ達も数人亡くなったというのに嘘をつくとお思いですか?」

「…申し訳ない」

「この実験が危険なものとは承知で参加した者たちです。それほど気に病まずとも平気です。こちらこそ申し訳ない。…まぁ、つまりはそういうわけです。よって、彼女の部屋に入る為には、彼女の素材となった細胞から作り出した特殊な抗体が必要であり、これこそが唯一絶対の手段。ただし…」

「…育て作りあげるのに一年かかる、と…」

「はい。そして抗体が切れるのに約24時間しかないという制限もあります。ですが、これさえあれば彼女に面会出来ます。勿論、私達も監視などという下衆な真似はいたしません。仕事をさせていただいた直後に撤退させていただきます」

「…わかりました。いつも申し訳ない。それでは始めてください」


「それでは、私達は失礼いたします」

「はい、ありがとうございました」

「…ああ。最後に一つよろしいでしょうか。この抗体は本来一年などでは育つはずがないのです。ですが、七月のこの時期になると異常に活性化し、あっという間に完成するのです。貴方に唯一用意していただいた材料…素材となった細胞。あれにはこの成長に何か理由があるのですか?」

「…ただの髪の毛ですよ。私の理想の女性の、ね」

「…わかりました。素材からは顔などの構成は作り上げられないので、女性ならどなたの髪の毛でもよかったのですが…一応スタッフのなどでなく、スポンサーの貴方に調達していただく、という程度のことだったので失礼を承知で興味本位で聞いてみました。それにあの部屋といい、七月に関わる……いえ、わかりました。それでは失礼いたします」



「…この時期、か。金を稼ぐのに必死で疲れ、周りを見回す余裕も無かった為に、ぼんやりと道路を歩き、車に轢かれそうになっていた見ず知らずの私をあの子は助けてくれた。そして身代わりに…。あの子は近所のイベントで用意された、大きな笹の木に願いを書いた短冊をつけに行こうとしていたのか、握られた手には、くしゃくしゃになった短冊が握られていた」

まるで天の川のように長い廊下を抜け、二つある重い扉のうちの一つを開け、私は部屋に近づく。

「“私を愛し続けてくれる恋人が欲しい”…そう書いてあったな。だから私は叶えることにした。例え一年に一度しか会えずとも、俺は君の想いを受けついだあの子を一生愛し続ける。罪の意識などではない。私は、見ず知らずの私などの為に命を投げ出してくれたような子を、愛さぬはずがあろうか」

二つ目の扉を開く。その部屋は天井がプラネタリウムになっている。私の要望で作らせた部屋の、あの日の夜空を永遠に映し続ける。
部屋の中央のベッドに寝ていた彼女が私の存在に気づいたのか跳ね起きた。
そして満面の笑みを浮かべて私に抱きついてきた。私はそんな彼女の髪を優しく撫で、彼女を抱きしめた。涙が溢れそうになるのを堪えた。

「愛しているよ…ずっと、ずっと。待たせてごめんな、私の織姫」

彼女の笑顔は、本当に嬉しそうで。
堪えていたものが、溢れ出した。



2005/10/30  : 「銀の手」

夢と幻想の世界を訪れた二人
ぎこちない会話もすぐに落ち着き
この世界を楽しみ始める
二人が話せばどんな待ち時間でも苦痛でなかった

暮れた陽は夜を呼び
食事を待つ女の子を夢にいざなう
眠る女の子を愛おしげに見つめ彼はそっと女の子の頬に手をやる
何にも代えがたい温もりが確かにそこに存在した

時は幻想の終わりを告げ
幻想の世界を背に二人
現実に戻る時、何も残らなくなるのが怖くて
顔を合わせず小さな声で風に乗せた彼の呟き

「記念に手を繋いでほしいな」

こじつけなのは明らかだけど
少し驚いた顔をして、それでも女の子は笑みを浮かべ彼の手を取る
二人並び幻想と現実の境界線を越えた

夢のような世界は消えて
夢のような感覚も消えて
いつもの世界が広がったけれど







繋いだ手は確かに残っていて
繋がった心と思い出は消えずに残った



2005/12/4  : 「It is complicated destiny and divide the fate」

---交錯するは運命、分かたれるは命運---


神に寵愛され、この世に生を受けたその男は
この荒廃する世界に平和をもたらす存在だと言われていた
誰にも負けない剣技を持ち、誰よりも優しい心を持ち、人望を持ち、誰よりも平和を望む…


彼は必然的に「英雄」と称されるようになっていた……


そして、この世界を蹂躙する異形の魔の者達を打ち払い、彼は世界に希望を与えた

魔の者達に捕らわれていた光の女神の血を引く少女を助け出し、彼は世界に光を与えた

神から与えられた力を使い、彼は荒れ果てた大地に緑を与えた

彼に協力して魔の者達の王を滅し、力を併せて戦った5人に、彼は神に与えられた力と技術を分け与えた

彼に力を与えられた者達はそれぞれが王となり、平和になったこの世界に国を造った。

彼もまた一国の王となり、光の女神の血を引く少女を妻とし、人々は彼を賞賛し、穏やかな日々を過ごした


「英雄」は平和になったこの世界を眺め、美しい金色の髪を緑と土の香りを運ぶ風になびかせ、
満足げに穏やかな笑みを浮かべ、優しさに包まれ軽く握った拳を空に掲げた
彼の望んだものは確かなものとして 目の前に広がっていた…







神に寵愛され、この世に生を受けたその男は
この荒廃する世界に終末をもたらす存在だと言われるようになった
誰にも負けない剣技を持ち、誰よりも冷たい心を持ち、命を奪い、誰よりも破滅を望む…


いつしか彼は「虚無」と称されるようになっていた……


ある時から、この世界を我が物にせんと他国を攻め始めたかつての仲間である各国の王に、彼は嘆いた

世界を統べるだけの力を恐れられ他国のみならず自国の民からも恐怖の視線を浴びて蔑まれる毎日に、彼は慟哭した

各国を回り王を説得しようとするも無駄な試みだと覚え、疲労した心と身体を引きずり戻ってきた彼を待っていたのは崩壊した自国の城であり、
城に火を放ち、武器を持ち城に押し入る自国の民に、彼は驚愕した

焦燥してもつれる足で必死に城内を駆け玉室に向かった彼の目の前に転がる妻の亡骸を抱き、彼は落涙し咆哮した。

彼は血の涙を流しながら、愛し続けた自国の民達を一人残らず手にかけ、そしてかつての仲間であった各国の王達を彼らの国ごと葬った

彼にとって、何の罪も無い妻を殺し、口先だけで平和を語り自分だけでは何も出来ない者達は全てが敵であり、彼から逃げる命という命を奪う日々を過ごした


「虚無」は再び荒廃したこの世界を眺め、真っ白になった髪を死と血の香りを運ぶ風になびかせ、
虚ろな表情に冷たい笑みを浮かべ、怒りに包まれ強く握った拳を大地に叩き付けた
彼の望んだものは何一つ存在しない世界が 目の前に広がっていた…




時を司る女神は、王室で眠っていた「英雄」の前に現れて未来の様子を告げた
未来は「虚無」と名乗る者によって再び荒廃する、と
その言葉を聞いた「英雄」は何一つ迷う事無く、剣を手に取り、時を司る女神に宣言した

未来に連れて行ってくれ 私がその者を滅する と

時の女神はただ何も言わずに頷き、彼を未来に運んだ




未来に着いた「英雄」は「虚無」と対面する


「虚無」は表情が見えない程に伸びた真っ白な髪の隙間から、また一つ腐った命を消せる、と口元に笑みを浮かべ「英雄」に剣を向けた


「英雄」は強い正義の意志に満ちた表情でしっかりと敵を見据え、この男だけは許せない、と怒りを込めて握り締めた剣を「虚無」に向けた


同時に大地を蹴り、剣を打ち合う二人を見ながら時の女神は考えていた




どちらが滅するべきかなど 神でも判断できない と




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